実は毎日使っている!?日常に溶け込む「デジタルツイン」技術をご紹介!
私たちが暮らす現実空間を、デジタル世界で双子のように再現する技術:デジタルツイン。製造業DXや都市開発の文脈で目にすることが最近増えてきたのではないかと思います。
特に最近では、東京都や国土交通省によって日本の都市の3Dモデルが公開されるなど、国をあげての取り組みを発表したことで注目度が高まりました。
とはいえ、デジタルツインはまだまだ新しい言葉で、はっきりとイメージを掴めていないという方も多いのではないかと思います。そこで今回は、「デジタルツインとは一体なんなのか」をスッキリ理解していただけるように、身近な例を交えてご紹介していきたいと思います。
目次
デジタルツインとは?
デジタルツインとは、リアルな世界にある情報をデータ化して集め、デジタル空間上にその姿を再現する技術のことです。
デジタルツインを作るために集める「リアルな世界にある情報」とは、ありとあらゆるものを指します。
たとえば、建物の数・大きさや道路のような私たちの身の回りに存在する物体。また、人流や物流、電気・水道・ガスの使用状況など、明確に目には見えないけれど人が活動しているからこそ発生するものも、リアルな世界にある情報です。
さらに、温度・湿度・天気など私たちの生活と密接に関わる自然や、人間の生体情報、人間の視線や身体の動きなど、私たち自身に関する情報も含まれています。
これらの情報を集める方法は、下記のように数多く存在します。
- IoTセンサー(気温・湿度・人感)
- トラッカー(生体・視線・身体)
- 映像・画像解析(例:カメラに写っている範囲に車が何台いるか)
環境に合わせて情報収集のためのデバイスを選ぶことも可能です。
デジタルツインの用途として、最も期待を集めているのは「シミュレーション」です。
「シミュレーション」とは「模擬実験」や「模擬行動」を意味します。リアルな世界で起こるあらゆる事象を本物に似せた空間で行うことを可能にしてくれるでしょう。
下記のような使用例が期待されています。
- リアルな世界で災害が発生した時に物流や人流にどのような影響が出るかをデジタル空間でシミュレーションする
- アスリートと全く同じ体型・重さのデジタルツインを作り、トレーニングによって骨や筋肉にどのような変化が起こるのかシミュレーションする
世界各地で「シミュレーション」に関する研究や実証実験が進められています。
デジタルツインとシミュレーションの違い
デジタルツインはシミュレーションの一環です。
多くの人がデジタルツインとシミュレーションを混同しますが、下記の3つの点で異なります。
- 再現環境
- リアルタイム性
- 精度
デジタルツインはリアルな世界を仮想空間に再現するものですが、シミュレーションに関してはコンピュータ上で実行されるとは限りません。模型などを用いたり、実験場などで行ったりすることもある点が異なります。
リアルタイム性についてですが、デジタルツインの場合はIoT技術を活用してリアルタイムで情報の収集を行い、仮想空間に反映させます。そのためリアルな世界に合わせて刻々と変化を遂げることが特徴です。それに対してシミュレーションは「ある時点」でのモデルを活用することが多く、必ずしもリアルタイムに表現するわけではありません。
そして、デジタルツインはリアルな世界から集めたデータを分析・処理するため再現性が高いのが特徴です。しかし、シミュレーションは多くが複数の仮説をもとに構成されたモデルです。精度についてはデジタルツインの方が高いと言えます。
デジタルツインとメタバースの違い
つづいて、デジタルツインとメタバースの違いを確認しましょう。
メタバースはデジタル空間上に作られた仮想世界のことです。「デジタル空間上に作られている」点がデジタルツインに似ています。しかし、下記の3点において両者は異なるのです。
- 仮想空間
- アバターの有無
- 利用目的
デジタルツインはリアルな世界の環境を仮想空間に再現しますが、メタバースはリアルな世界を仮想空間に「そのまま」再現するとは限りません。リアルな世界にはなかったものを加えたり、リアルな世界とは異なる世界を生み出したりすることもあります。
メタバースではアバターを使って活動することが多いですが、デジタルツインにおいてアバターは必ずしも必要なものではありません。
そして、両者は利用目的も異なります。デジタルツインは、リアルな世界に再現するのが難しい高度なシミュレーションをすることが目的ですが、メタバースの場合は、ゲームや会議におけるコミュニケーション手段としての活用が目的です。
デジタルツインが注目されるようになった背景と将来性
デジタルツインは最先端技術であるように感じられるかもしれませんが、「概念」は1960年代には存在していました。それはNASA(米国国家航空宇宙局)が編み出した「ペアリング・テクノロジー」です。「ペアリング・テクノロジー」は、地球サイドに月サイドと全く同じ機材設備を複製しておくことで、トラブル発生時に速やかに対応ができるようにするための技術のことを指します。実際に1970年代のアポロ13号による月面着陸のミッションで、爆発した酸素タンクの遠隔修理指示の際に役立ちました。
Motor Intelligenceによると、デジタルツイン技術の市場規模は2023年には190億米ドル、そして2023年から2028年の5年間で919億2,000万米ドルまで拡大する見込みです。
NASAの試みでは実際にコピーを準備するものでしたが、デジタルツインの場合はコンピュータ内の仮想空間内に複製を構築します。近年IoTやAIなどの進化が目覚ましいことから、かなり高精度の解像度でリアルな世界を再現できるようになりました。驚異的なスピードで実用化が進んでいることからも、市場規模が今後ますます拡大するのも納得できるでしょう。
デジタルツイン技術が活用できる業界
特に、下記の業界におけるデジタルツイン技術の導入や普及が期待されています。
- 製造業
- 医療
- 都市計画
- 農業
それぞれの業界での活用例について説明します。
製造業
製造業においては、製品の製造段階でデジタルツインのテクノロジーを活用することができます。現実の工場の空間をデータ化してデジタル空間上に構築すると、フロントローディングすることが可能です。
フロントローディングすることで下記のようにさまざまなメリットが期待できるでしょう。
- 業務の効率化
- ロジスティクスの変革
- サプライチェーンにおけるサービス品質の向上
医療
医療業界では、人間のデジタルツインを使って、人々の健康状況の把握やヘルスケアのサポートをすることが可能です。
また、製薬会社による個人の治療シナリオの検証が進められていることからも、デジタルツインによって1人ひとりに適したオーダーメイドの治療法を選ぶことができるようになるかもしれません。
都市計画
都市計画でデジタルツイン技術を利用すると、人の流れや交通や気象などさまざまなことをシミュレーションしてモニタリングすることができるようになるでしょう。
現代のニーズや価値観に沿った都市運営を目指す「スマートシティ」を実現するためには、デジタルツインの技術は必要不可欠です。
農業
農業においては気温、湿度、土壌の状態などに関する情報をセンサーから得ることで、1つひとつの作物や畑全体の仮想空間を作り出すことができます。
これによって畑の異常事態を早期発見したり、最適な収穫のタイミングを予測したりすることが容易になるでしょう。
また、気候変動や病害虫の発生などが農作物にどれほどの影響を与えるか予測するためのモデルを作成することもできるようになります。
デジタルツインのメリット
デジタルツインの技術は既に製造業や建設業界などで活用されていますが、利用することで下記のようなメリットがあります。
- 品質を向上してリスクを軽減できる
- 遠隔地における作業支援や技能伝承ができる
- 社会問題解決につながる
- アフターサービスを充実させられる
- 売り上げの向上につながる
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
品質を向上してリスクを軽減できる
デジタルツインを使用することで、製品の品質を向上させることが可能です。
仮想空間で何度も試行錯誤を繰り返して試作品を制作・改善し、コストを抑えてPDCAサイクルを回すことができます。
また、仮想空間であればリアルな世界では実現できない実験を行うことが可能です。そのため製品を出荷する前に、仮想空間で検証することもできるでしょう。
仮想空間上での試作や検証などを通じて、大幅に開発コストを抑えることにもつながります。製品開発は莫大なコストがかかるものの、実効性は担保されていません。しかし、デジタルツインを活用すれば、試作を何度も繰り返せるため、実効性が高まることが期待できます。つまり、リスクを軽減できるということです。
遠隔地における作業支援や技能伝承ができる
上記のアポロ13号での例のように、デジタルツインを活用すれば物理的な距離に関係なく作業指示ができるようになります。つまり、現場に行くことが当たり前だった作業監督者や指導員の仕事もリモートでできるようになるのです。
さらに、作業の内容をデジタルツインに記録・蓄積することで、熟練者のテクニックやノウハウを伝承していくこともできるようになるでしょう。
社会問題解決につながる
デジタルツインは自然災害による避難訓練の実施計画の立案など社会問題の解決にも役立つでしょう。実際に起こる可能性がある問題や課題をピックアップして、解決手段を考える取り組みに活用することも可能です。
他にも天候や土壌のデータに基づいて、農場や畑を再現して農作業の効率化を目指すといった活用法もあります。
アフターサービスを充実させられる
これまでは製品に不具合が生じると、顧客や消費者がメーカーに問い合わせや修理の依頼をする必要がありましたが、デジタルツインがあればその必要がなくなるでしょう。
製品からデータがリアルタイムで送られてくるため、部品の交換などメンテナンスが必要なタイミングで通知を送ることができるからです。このようなサポート体制は顧客満足度の向上にもつながります。
さらに、製品から送られているデータや利用状況などの情報を新製品の開発やマーケティングなどの活動に応用することも可能です。
売り上げの向上につながる
デジタルツインにより製品への接触機会が増えて、販売促進効果が高まるでしょう。つまり、売り上げの向上につながる可能性が高いです。
仮想空間を用いた製品のデモンストレーションには、地域や場所による制約はありません。さまざまな顧客に製品への接触機会を提供することができます。特に、大きくて重い製品であるほどデジタルツインによる販売促進効果を感じられるはずです。
デジタルツインのデメリットと課題
デジタルツインは最新技術であるため、下記のようなデメリットや課題もあります。
- コストがかかる
- 情報漏洩のリスクがある
- 導入と管理に高度な技術力が求められる
ここでは、それぞれのデメリットや課題について解説します。
コストがかかる
デジタルツインを導入・活用する場合、リアルな世界を仮想空間に再生するための詳細かつ膨大なデータが不可欠です。データを取り込むためにはIoTなどさまざまな最新機器が必要で、このような機器やシステムの構築に費用がかかります。
さらに、デジタルツインを活用するために必要となるデータの取得は簡単ではありません。取り込んだデータをリアルな世界に近づけることに対しても費用がかかるでしょう。
デジタルツインの導入を検討する際には、どのようなレベルのシステムを構築するのかをよく考えてから検討することをおすすめします。
情報漏洩のリスクがある
デジタルツインはさまざまな情報をデータ化してネットワークに流すことになるため、しっかりと不正アクセス対策やセキュリティ対策を行わないと情報漏洩のリスクがあります。
顧客のデータが流出してしまった場合、第三者に情報を悪用されるだけでなく、顧客からの信用を失う可能性があるでしょう。十分に対策を行うことが必要です。
導入と管理に高度な技術力が求められる
デジタルツインは導入だけでなく、運用や保守にも高度な技術力が必要です。特に、デジタルツインを長期的にビジネスに活用する場合は、必要となるシミュレーションが変化するたびにシステムを改修しなくてはなりません。
自社内にデジタルツインに精通した人材がいない場合は、デジタルツインの管理ができる人材を外注する必要があります。そして、その外注先と適宜コミュニケーションを取って連携を図らないと、デジタルツインを最大限に活用できなくなる恐れがあるため注意してください。
デジタルツインに活用されている技術
デジタルツインに活用されている技術は下記のように多岐にわたります。
- IoT
- AI
- AR / VR
- 5G
- 3D CAD
それぞれの技術について簡単に紹介します。
IoT
IoTとは”Internet of Things”の略で、「モノのインターネット」という意味です。モノがインターネット経由で通信することを指します。パソコンやスマートフォンだけでなく、車や家電までインターネットにつながる時代になりました。
IoTが仮想空間を構築するためのデータの収集を可能にしてくれます。センサーや監視カメラ、そしてドローンなどを通じてリアルな世界にある家や車、建物などのデータを集めてサイバー空間へとデータを送るという仕組みです。
AI
AIはデジタルツインにおいて、クラウド上に送られた膨大な量のデータを分析・処理し、将来を予測するのに必要不可欠な技術です。
「膨大なデータを高精度かつスピーディーに解析できる」というAIの強みが生かされています。
AR / VR
ARは”Augmented Reality”の略で「拡張現実」と呼ばれる技術です。リアルな世界にデジタル情報を加えます。
そしてVRは”Virtual Reality”の略で「仮想現実」という意味です。仮想空間にいるかのような体験をすることができます。
デジタルツインでは仮想空間を作り上げる際に、リアルな世界と仮想空間を融合させていることからこれらの技術は必要不可欠です。
ARやVRについてさらに詳しく知りたい人はこちらの記事もお読みください
5G
5Gは、従来と比べて高速かつ低遅延で大容量のデータを送受信できる技術です。デジタルツインはリアルタイムで膨大なデータをリアルな世界から仮想空間に送る必要があるため、5Gはデジタルツインに必要不可欠であると言っても過言ではないでしょう。
3D CAD
CADとは”Computer Aided Design”の略で、コンピューターでの製品設計や開発のシミュレーションに使われるツールです。立体データは3D CADと呼ばれ、デジタルツインにおいては、仮想空間に作り上げたモデルのシミュレーションに使用されることがあります。
デジタルツインの事例紹介
ここでは私たちの生活で既に導入されているデジタルツインの事例を3つ紹介します。
下記の通りです。
- Mini Tokyo 3D
- Apple – Face ID
- ZOZO – ZOZOSUIT
これらの事例を見れば、デジタルツインに対するイメージや理解がより具体的なものになるはずです。
Mini Tokyo 3D
こちらはデジタルツインの活用方法というよりも、デジタルツインそのものを感覚的に理解するのにぴったりの事例で、Web上で公開されている”Mini Tokyo3D”というデータビジュアライゼーションです。「東京」のデジタルツインになっており、プログラマー草薙昭彦さんによって制作されました。
東京が小さな箱庭のように再現されています。よく見ると、電車の車両が少しずつ動いており可愛らしいですね。
仕組みとしては鉄道や航空の運行状況などの動的データを定期的に取得し、リアルタイムに反映させ、可視化するというものです。
Apple – Face ID
私たちの生活で最も身近なデジタルツインの技術は、iPhoneまたはiPadに搭載されている「Face ID」でしょう。
2017年に発売されたiPhone Xに初めて搭載されてから6年が経過しました。
この技術が収集するデータは、iPhoneの持ち主の顔の凹凸です。3万点以上ものドットを顔に照射し、立体的に顔の形状を捉えてデータ化しています。その3Dデータをロック解除するための「鍵」として使う仕組みです。
iPhoneの中に実は自分の顔のデジタルバージョンが保存されていると考えると、「デジタルツイン(デジタルの双子)」の言葉の意味がより分かりやすくなるのではないでしょうか?
ZOZO- ZOZOSUIT
次に、大手ファッション通販サイトZOZO TOWNが2017年に発表した「ZOZO SUIT」についてです。発表当時は黒の全身タイツに白の水玉模様が消費者に大きなインパクトを与えて、ネット上で大変話題になりました。(2022月6月にサービス終了済み)
この技術は、身体にピッタリとフィットするZOZOスーツを着ることで身体の至るところにマーカーをつけることができ、カメラで撮影した画像からマーカーの位置を解析します。そしてその解析結果をもとに3Dデータを作り、数値とともに可視化することができるようになるわけです。つまり、ZOZOスーツによって、ユーザーはその結果にマッチする洋服のサイズを試着なしで把握することができます。
上記の動画「ZOZOSUIT2」では、単にファッション通販を助けるだけでなく、ヘルスケアの応用として使用されることが発表されています。自分の身体を客観的に理解するためにデジタルツインを作るというアプローチをとっていることがわかるでしょう。
デジタルツインを作ろう
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