脳波×IT「ブレインテック」とは?メリットや活用例を徹底解説
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みなさんは「脳波」と聞くと何をイメージしますか?
病院やSF映画をイメージされる人が多いのではないでしょうか?脳波は未だ、私たちの生活に身近なものではありません。しかし現在、脳波とIT技術を掛け合わせた「ブレインテック」が、医療・ヘルスケアだけでなく、スポーツ、音楽、教育などさまざまなエリアや企業に注目されており、状況が変わりつつあります。
この記事では、脳波とIT技術を掛け合わせたブレインテックの使用例、企業がブレインテックを利用するメリット、そしてブレインテック市場の今後の展望について詳しくご紹介します。
目次
脳波とは

脳波とは外部から受けた刺激に反応して、脳内の神経細胞同士がさまざまな処理を行う際に発せられる電気信号です。1875年に犬、ウサギ、そしてサルから、1920年には人間から測定できるようになりました。
EEG(Electroencephalogram)と呼ばれる脳波検査は、脳の神経の働きを見る検査で、下記の疾患を検査する際に用いられます。
- 脳血管障害(例:脳梗塞、脳腫瘍)
- 発作性意識障害(例:てんかん)
- 頭部外傷による中枢神経異常や薬物中毒に伴う意識障害
脳波が発生する仕組み

人間の脳内には1,000〜2,000億個もの脳神経細胞(ニューロン)があると言われています。ニューロンは、外部からの刺激を受けた際に電気を発生させながら他のニューロンに電気信号を使って情報の伝達を行います。
そしてこの電気信号の伝達が「脳波」として記録されるのです。
脳波の種類とそれぞれの特徴

脳波についてはまだまだ研究中で未発見のものが多くありますが、現段階では5つの脳波があることが判明しています。
下記の表はそれぞれの脳波の種類と特徴などをまとめたものです。
脳波の種類 | 周波数(Hz) | 心理状態 |
ガンマ波 | 30-70 |
|
ベータ波 | 13-30 |
|
アルファ波 | 8-13 |
|
シータ波 | 4-8 |
|
デルタ波 | -4 | – 徐波睡眠 |
脳波検査(EEG)とは

EEGでは頭部全体に皿電極を22個、肩または首に筋電図のための皿電極を2個、そして呼吸を調べるための装置レスピレーターを装着します。
静かで落ち着いた環境の中、覚醒している状態で目の開閉を行い、目に光の刺激を与えながら深呼吸をします。20分ほどこの検査が行われます。その後、睡眠中の脳波を記録したら検査終了です。検査時間は全体で1時間から1時間30分ほどです。
頭部に電極を装着するので、検査前日には頭皮・頭髪をしっかりと洗いましょう。また、検査中は自由に身動きができないため、検査直前にお手洗いを済ませておくことを忘れないようにしてください。
脳活動の測定方法(NIRS)について

つづいて脳活動を測定するための方法NIRSについてご紹介します。
NIRSは光トポグラフィ技術の微弱な金赤外光を用いて大脳皮質部分の活動を可視化するための技術です。
大脳皮質は、言語、行為、知覚、記憶、判断など人間らしさを司る高次脳機能を有しています。
脳活動を測定するための方法として脳波計測や磁気共鳴などの方法もあります。しかし、NIRSは放射線や薬品の使用が不要で身体へ与える負担が少なく、より日常に近い環境で計測できる点が特徴です。
ブレインテックとは

脳波や脳機能を調べるための検査方法をご紹介しました。近年、脳波や脳機能とIT技術を融合させた技術「ブレインテック」が注目を浴びています。
ブレインテックは脳(Brain)と技術(Technology)を掛け合わせた造語です。ブレインテックを通じて、頭の中で考えたことやイメージを言葉にしなくても相手に伝えられるようになるでしょう。ITと脳神経科学を融合させた技術、研究、そして新たなサービスがアメリカやイスラエルを中心に進められています。
ブレインテックの代表例として2018年にアメリカのフィリップ社が発表したヘッドフォン型の睡眠改善機器Smart Sleepが挙げられます。これは睡眠の深さを脳波で測定しながら、深く入眠した際により深い睡眠へ誘導できる製品です。
ブレインテックの現状と今後の展望

ブレインテックに関する研究はアメリカとイスラエルを中心に進んでいますが、今後もブレインテックの市場規模は世界的に拡大すると見込まれています。日経新聞によると2024年にはブレインテックの世界市場は5兆円に届き、そのうちの80%が医療分野で、20%が自動車産業などその他産業で活用されると言われています。しかし、詳細は後述しますが、ブレインテックは今後医療以外のさまざまな分野で応用されることが期待されています。
Facebook社やイーロン・マスク氏が経営するNeuralink社では多額の資金をブレインテックに投資していることからも、ブレインテックの未来は明るいと言えるでしょう。
ブレインテックを企業内で活用するメリット

ブレインテックと聞くと、医療など限られた業界でしか利用できないのではないかと考える人もいるかもしれません。
ブレインテックは一般企業でも活用することができ、下記のようにさまざまなメリットがあります。
- 社員間でスムーズに情報共有ができる
- 明確な採用基準を作ることができる
- 労働者の脳の状態を把握できる
- 人材の育成に有効活用できる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
社員間でスムーズに情報共有できる
ブレインテックを通じて、頭の中で考えていたことやイメージが言葉にしなくても簡単に視覚化されることが期待されます。つまり、ブレインテックによって脳内の情報が素早く他の社員に共有され、毎日社員が行った仕事を「見える化」させられるということです。
従来、特定の社員にしかできない仕事や仕事の抱え込みによってブラックボックス化している部署があり仕事が属人化されていましたが、ブレインテックによって仕事の属人化から解放されるでしょう。
明確な採用基準を作ることができる
採用活動をする際に、「人柄」が大きなウェイトを占めている企業が多いでしょう。しかし、この「人柄」は非常に曖昧で、採用担当者や面接担当者によってどのような人材が会社で活躍できるのかという視点が少し異なります。
ブレインテックを活用すれば、採用基準の明確化と数値化が可能になるでしょう。それはブレインテックでは脳の状態を見ながら採用担当者や面接担当者の採用基準を見られるからです。そして、彼らが採用した人材の面接を行なっていたときの脳の状態に共通点が見られれば数値化できます。
採用面接は面接官と応募者との相性や第一印象など数値化が難しいとされてきましたが、ブレインテックによってこのような問題が解決され、よりよい人材確保につながる可能性があります。
労働者の脳の状態を把握できる
ブレインテックの活用で、労働者の仕事中の脳の働きを見ながら適性のある部署や役職への配属が可能になるでしょう。
このような活用方法をする場合は、採用してからさまざまな部署をローテーションで体験させながら労働者の脳波を計測すると良いでしょう。どの仕事をしているときに最も脳波が活発に動いているかを把握することで、労働者の適性が分かります。
適材適所によって、結果として労働者も仕事に対するモチベーションが上がり、離職率の低下、生産性の向上につながることが期待されます。
人材の育成に有効活用できる
ブレインテックは人材の育成にも有用です。ブレインテックによって労働者が本当に興味を持って取り組んでいるのかが把握できるからです。
たとえば、会社が社員に身につけてもらいたいスキルや知識があり、研修を通じて育成をする場面を思い浮かべてください。このような研修を提供しても社員に興味や関心がなければ効果が薄く、時間とコストの無駄になってしまう可能性があります。人材育成をする上で、相手の関心や興味は必要不可欠です。ブレインテックによって効果的な人材育成が期待できます。
また、ブレインテックを通じて、会社が示す方向性に社員が理解を示しているのかを確認するためにも役立つでしょう。
ブレインテック× AIでさまざまな社会問題が解決する

EEGのデバイスの進化によって脳波が測定しやすくなったり、AIのアルゴリズムの精度が劇的に向上したり、脳波をビッグデータとして保存して活用できる環境が整ったりといったことが理由で、ブレインテックとAIを掛け合わせることが可能になりました。
ブレインテックと人工知能(AI)を掛け合わせることで下記のようにさまざまな社会問題が解決されることが期待されます。
- 伝統工業などの熟練者のスキルを継承
- 職種の適性判断
- 商品開発
それぞれの活用方法について説明します。
伝統工業などの熟練者のスキルを継承
少子高齢化によって日本の熟練者のスキルの継承が社会問題になっていますが、ブレインテックとAIを掛け合わせることでこの問題を解決できるかもしれません。
2021年4月に株式会社アイシンによって行われた自動車部品メーカーの目視検査の自動化を例に説明しましょう。
株式会社アイシンはカーナビの開発を行なっている会社で、毎日膨大なデータを見ながら品質の確認を行う必要があります。この作業はパソコンの画面をずっと見続ける作業であるため重労働です。ベテランと未経験者のあいだには検査能力に大きな隔たりがあり、平準化したいと長年願っていました。
そこで、ベテラン検査員が品質の確認を行なっている際の脳波を測定し、その脳波データを学習データとして活用して、ベテランの検査スキルを身につけたAIモデルを構築したのです。
ブレインテックとAIの掛け合わせによって、検査作業の一部を自動化させられるとともに、ベテランのスキルを継承させるといった課題の解決にもつながりました。
この技術は伝統工業、医療、そして空港セキュリティなどさまざまな分野に応用させられるでしょう。
職種の適性判断
従来は新入社員の適職診断は面談やペーパーテストを用いて行われていました。
適職診断のための面接やペーパーテスト実施中に、社員の脳波を計測し集中力や関心の度合いをチェックすることで、より正確な職種の適正判断ができることが期待されます。
脳波を使うことで、労働者本人すら気づいていない潜在能力や興味関心を知って本当にその人に向いた職種を見つけられるとともに、労働者本人の幸福度を高め、定着率の向上につながるでしょう。
商品開発
現代は、商品を販売してみないとユーザーの気持ちがわからないため、商品開発が難しい時代です。しかし、商品をリリースする前に消費者の感情を脳波で測定することで、安心して商品を世に送り出すことができます。
詳細は後述しますが、従来のマーケティング手法と掛け合わせて、消費者の無意識の中の感情を知るためのマーケティング手法「ニューロマーケティング」の活用が期待できるでしょう。
脳波を活かした取り組みの例

脳波を活かした取り組みとしては下記の2つが代表例です。
- BMI (ブレイン・マシーン・インターフェイス)
- ニューロマーケティング
それぞれの取り組みの例について詳しく解説します。
BMI (ブレイン・マシーン・インターフェイス)
BMI(ブレイン・マシーン・インターフェイス)はキーボードを使わずに頭の中の考えやアイディアを文字化・映像化させたり、考えただけで機械を動かすことができたりする技術のことです。
アメリカのFacebook社がカリフォルニア大学と共同開発したBMIは、1分間で300もの単語を入力できたという報告があります。エラー率3%で、正確さについても大きな問題はないようです。
BMIはリハビリや脳トレに役立つでしょう。また運動器官に障害がある方のためのロボットアームや車椅子などに応用されることが期待されています。
ニューロマーケティング
ニューロマーケティングは、脳波や視線の動きなどを活用したマーケティング手法のことです。
アンケートやヒアリングなど従来の行動分析方法では、消費者の無意識の中にある本音を引き出すことが難しいとされてきました。
しかし、脳波や視線の動きなどは無意識の下にある感情とされており、これを測定できると潜在的なニーズを特定できます。つまり、消費者の言語化できない考えを理解できるようになるということです。ニューロマーケティングを、従来のマーケティングの行動手法と併せて行うことでより効果的なマーケティング活動が実現するでしょう。
下記の表はニューロマーケティングの調査方法の3つとそれぞれの特徴をまとめたものです。
調査方法 | 特徴・活用例 |
アイトラッキング | 眼球の動きを分析しながら、どこに視線を集中し、いつどこに視線を移したのかが計測できる調査方法です。パンフレットや商品パッケージの効果測定に役立つでしょう。 |
表情認識 | 表情認識とは、顔の表情から感情を分析しながら目や唇の動きを計測する調査方法です。広告を見た時の表情を分析して、どれだけ興味を持ってもらえたかを知ることに活用できるでしょう。 |
fMRI (脳活動測定) | fMRIはMRIを活用して脳内の血液循環量を測定して脳内で活性化している部分が把握できる調査方法です。fMRIを用いて消費者がサービルや製品を使用している消費者の脳内を調べることで商品への反応の定量評価ができます。得られるデータの信頼性が高いというメリットがありますが、実施できる施設が限られていることとコストがかかることがデメリットです。 |
脳科学ビジネスが活用できるエリア

脳科学ビジネスと聞くと医療・ヘルスケアがメインなのではないかと思われるかもしれませんが、これまでの記事を読まれたあなたはさまざま分野に応用できる技術であることが分かっていただけたでしょう。
脳科学ビジネスが活用できるエリアは下記のように多岐にわたります。
- 医療・ヘルスケア
- 教育・スポーツ
- 睡眠・音楽
- マーケティング
それぞれのエリアでの具体的な活用例について詳しく解説します。
医療・ヘルスケア
現在ブレインテック市場の80%を占めているのが医療・ヘルスケア分野での用途です。
脳波の測定によって脳の動きが「見える化」されます。アルツハイマーや認知症などの脳疾患、うつ病などの精神疾患など、これまで完治が難しいと言われてきた病気の治療や予防に役立つかもしれません。
ブレインテックによって画期的な治療法や医学がより進歩することが期待されます。
教育・スポーツ
教育やスポーツの分野におけるブレインテックの活用としてはニューロフィードバックという技術が挙げられます。
ニューロフィードバックとは、測定した脳の状態を映像や音声を通して詳細に伝える技術です。
脳の状態を可視化できるようにするだけでなく、音として耳で把握することもできるため、学習能力やスポーツのパフォーマンス向上に役立つことが期待できます。
実際にアメリカではプロのスポーツチームや、オリンピックを目指すスポーツ選手のチームにプレインテックを用いた練習を取り入れているようです。
睡眠・音楽
睡眠・音楽とブレインテックの相性は良いです。
上記にもありますが、睡眠中の脳波を測定することで睡眠の質の向上を目指すヘッドフォン型の睡眠改善機器など、すでに睡眠とブレインテックを掛け合わせた製品の開発が進んでいます。睡眠の質が向上すると、QOL(生活の質)の向上も期待できるため非常に注目されています。
また音楽に関しては、音楽が脳に与える影響に関する研究で活用されています。
音楽によってリラックスさせられたり、モチベーションを高めることができたり音楽は私たちの生活に不可欠な存在といっても過言ではありません。
ブレインテックを用いて、脳の状態に合わせてあなたにおすすめの音楽を流してくれるといったサービスや製品が生み出される日も遠くはないでしょう。
マーケティング
上記にもありますが、ブレインテックはニューロマーケティングとしてマーケティング活動にも活用することができます。
脳波を測定し、言語化できない微妙な感情の変化を読み取ることで、本質的なマーケティング活動の実現につながるでしょう。
現段階ではニューロマーケティングを導入している企業は少ないですが、商品パッケージ、テレビCM、そして商品カタログなどさまざまな販売促進活動の効果測定に応用できることから、今後ニューロマーケティングに力を注ぐ企業が増えていくことが期待されます。
まとめ:脳波はビジネスに活用できる!

脳波とIT技術を掛け合わせた「ブレインテック」は医療・ヘルスケアを中心に、スポーツ、音楽、教育などさまざまなエリアで活用できることがお分かりいただけましたか?
脳に関する研究は未発達で、まだまだ不明なことが多いと言われています。しかし、脳波の測定によって脳の全容を解明する研究が進み私たちの生活で身近なサービスや製品となれば、この記事でもご紹介したような世界が実現し、私たちの生活の質がさらに向上するでしょう。
脳波やブレインテックについてさらに詳しく知りたい方や、生体データの活用・開発に興味がある方は、ぜひダフトクラフトまでお問い合わせください。

ダフトクラフト編集部
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